Stray Kidsとパラジャーノフ
- eri tsuchiya

- Oct 25
- 9 min read
Updated: Oct 29
またもやご無沙汰してしまいました。書きたいことはたくさんあるのですが、気軽に気まぐれに書けるほど器用でもなくて、書くならしっかり書きたいみたいな欲もあって(結局しっかりしたものなど書けないのですが)、どうも間が開いてしまいがちです…
ですが、今日こそ書くぞ!と思ったのは、Stray Kidsの新作のTrailerについて昨日Mastodonについつい連投してしまって、ああこれはブログにまとめたほうがいいなと思ったから…はい、何を隠そう、いや隠していませんが、私はStray Kidsの大ファンです。
以前からたびたび言及しておりますが、私はいわゆるテレビというものを所有しておらず、Stray Kidsがどんな世代にどのくらいの範囲でどう知られているのかといったことがよくわからずにいるので、一応「Stray Kidsって何?」という方のためにざっと説明すると、2017年に活動開始した、韓国の事務所に所属する人気グループです。ああつまりK-POPね、というのは…もちろんそうなんでしょうけれど、私自身はK-POPという分野を広く追っているわけではないのであまり詳しくはなく、何をもってそう括るべきかもあまり分かっておらず…元々なんとなくそうやってあれこれ括ってしまうことがあまり好きではないので、彼らについてもその言い方で説明することに抵抗はあったりします。といっても、彼らについてちょっと検索すれば、「K-POPの第何世代を代表する~」といった説明は数多く出てくると思いますし、その分類に特に反対しているわけでもありません。
ちなみに私はBlack Pink(同じく韓国の別の事務所在籍のグループ)も好きです。Black PinkもStary Kidsも聴くようになったのは、たまたま…です。そうとしか言いようがありませんが、どちらもきっかけは音声だけ聴いたのではなくMVの映像が強烈に印象に残ったから…というのはあります。
そういうわけで、先日、Stray Kidsが約1か月後にリリース予定の新作「DO IT」のTrailer動画が配信されたんですが、これがねえ…セルゲイ・パラジャーノフの映画「ざくろの色」のオマージュみたいなところが出てくるんですよ!!!
映画「ざくろの色(1969年ソ連)」はカラー作品ですので、このTrailerのモノクローム映像のイメージとは大きく異なりますが、このTrailerに映し出されるモティーフやサウンドのイメージは、「ざくろの色」その他のパラジャーノフ作品をご存知の方にとってはすぐにいろいろな場面に結びつくのではないかと思います。最もはっきり表れているのは1:11あたりの、布の上に置かれたダガーとその周りに広がる染みの部分でしょうか。もしもこれだけなら「たまたまでしょ?」ってことかもしれませんが、1:48からの実のないブドウの房(実はなく枯れ枝のようになっている)のシーンも確かに「ざくろの色」に原型をたどることができますし(こちらは実のついたブドウの房)、これ以上具体的に上げることは避けますが、ほかにも複数のオマージュ的要素が見て取れます。
彼らのMVやTrailer映像には、今までも様々な映画作品からの影響がたくさん詰め込まれてきました。私は映画鑑賞の幅がとても狭いので、私に把握できないものもいっぱい含まれているのだと思いますが、その私が気付く範囲でも、かなり多岐にわたり、敬意と創造性をもって取り込まれていることが伺い知れます。それは俗にいう「パクリ」とかではなく、アートにおける模倣と伝承そのものだといえると思っていますし、そういった意味で、とても真摯に過去の偉大な作品に向き合い研究している方々が制作チームにいらっしゃるのだろうなあ、と。ほんの3分前後のMVやTrailerでそんな大げさな…と思われるかもしれませんが…
Stray Kidsはメイキング映像もよく公開しているので、その中で「この場面はこういう作品のこんなイメージにヒントを得た」といったことにはっきりと言及している場合もありますし、そういう言及を確認せずとも明確にわかるものもたくさんあります。たとえば「LALALALA」のMVで登場するスクールバスやクラウンの面をつけた人々などは一目瞭然で「ダークナイト(2008年クリストファー・ノーラン監督)」を想起させます。
「Chk Chk Boom」MVでは、友情出演とのことでライアン・レイノルズとヒュー・ジャックマンがMARVEL COMICSのキャラクターとして登場していましたので、これに関しては一目瞭然どころではないですね。
あ、あと、「CASE 143」のMVではスタンリー・キューブリック「シャイニング(1980年)」の廊下が再現されていました。楽曲は明るめでポップなイメージなんですけれど、意味合いや解釈として、「なぜシャイニングの廊下なのか」がしっかり裏付けされていると思います。
こういった「一目瞭然」の表現以外にも、かなり細かく様々に取り入れられたと思しき要素がまだまだあります。たくさんの矢印といえばジャック・タチだよなあ…とか、このライティングはアンドレイ・タルコフスキーのあの映画のあの場面っぽいな…とか、ジャン・コクトーの有名なあの手法の現代版だな…とか。それらは自分の狭い鑑賞範囲でも「あ、この場面…!!」とすぐに思い当たるものなわけですが、単なる個人的な憶測で無理に結び付けているだけでは?と言われればそれまで…なのかもしれません。表現手法はあらゆる意味で「無限」だったりしないのですから、意図せず似てしまうことは当然あり得ます。しかし、もしそれらが何らかの影響の表れであるとしたら、軽い思い付きや流行に乗った「パクリ」とか表面的な「真似事」ではなく、深い敬意をもって解釈したうえで慎重に取り入れている印象があり、いつも驚嘆しつつ楽しみに鑑賞しています。
ちなみにキューブリック作品については、私はすべてを「何度も繰り返し観ている」わけではないので、「シャイニング」にもあまり詳しくはなくて、あの廊下を再現しているのだと認識できたのは、いわゆる「リアクション動画」というものを見たからです。
リアクション動画というのは、各種コンテンツを鑑賞する自身の「リアクション」を動画にして配信しているもののことで、様々なジャンルに様々な人気リアクターさんたちがいらっしゃるようです(各言語できっとたくさんそういう動画が出ているんだと思いますが、私は英語で配信されているものを見ています)。中には、実際に自身も人気アーティストのMV制作に携わっているよーなんていう方もいて(主宰する映像編集オンラインスクールの宣伝も兼ねてそういう動画を配信してるようです)、撮影の手法なんかを細かく解説してくれるので結構面白いんですが…そのような映像系の専門家の立場にいる人ですら、前述の「シャイニング」や「ダークナイト」のように多くの人が一目で認識する要素以外では、具体的な「アイディアやイメージの出どころ」にまで言及しているケースは割と少ないんですよね…まあ、あえて伏せているのかもしれません(企業秘密というか職業機密?みたいなものとか…まあ言及しだすときりがないだろうし、そこにはいろいろ不文律もあるのだろうな…)。
…にしても、今回のTrailerで、わあ!これはパラジャーノフの影響だね!!みたいな感想が全然目につかなくて(配信になってまだ日が浅いのでこれから出てくるかもしれませんが)、ちょっと寂しいというか、安直に(と言ってしまうのは失礼なのかもしれませんが、少なくとも割と単純に)全然別のもののイメージに重ね合わせてしまうコメントとかはあって…まあつまり、ちょっと見慣れない雰囲気から「Spookyだね」とか、それを時期的なイヴェントに結び付けて「なるほど、ハロウィーンを意識しているのかな」とか、そういう感じのものなんですけれど…ええええええ…そうなのかなあ…まあそれもそうなんだろうけどなあ…みんなたどれる脳内イメージや脳内コンテンツって千差万別なんだなあ…などと改めて思いました。もちろんそれでいいというか、私なんぞに許可されるまでもなく、それぞれの鑑賞者が抱く印象や解釈に「正解・不正解」などないわけで、なんとなく「今まで見たことのない雰囲気」で「ちょっと不気味で怖い印象」からホラー的な要素を強く感じ取った人も多いのでしょうし、前述のようなSpookyとかハロウィーンとかいったキーワードが出てきてしまうのも、その印象を理由づけるものとして当然理解できます。
制作チームの意図がインタビューなどである程度語られている場合もありますが、実際はそこで公表している要素だけとは限らないでしょう。結局のところ、あくまでも鑑賞者として自分が何となくこうなんじゃないかなと思うものが漠然とあるだけなんですが、例えば今回のこの「DO IT」Trailerを見て、ああここの制作チームにはパラジャーノフの「ざくろの色」のあの場面が脳内再生される人がいるのだな…と思えることっていうのは、なんというか、少しうれしいというか…自分が「すごい」と思っている何かが、こうして敬意をもって模倣され伝承されていくのだ、というのを目の当たりにできる喜びみたいなものというか。
なお、このTrailerには、パラジャーノフだけではなく多分タルコフスキーやその他の要素も含まれているな…とも思いましたが、タルコフスキーについてはどの映画のどの場面ということは確認なしには言及できず(私にとっては再鑑賞にあたり覚悟のいる作品が多いので)…それらをすべて細かく分析し把握したい!とかいうわけでもないので、繰り返し鑑賞していく中で、何かの機会にまた「あ、あれは…」と気付けるのを楽しみにしたいと思います。
そして、今回書きたかった一番重要なこと…
それは、先ほどから何度か繰り返して書いている、模倣と伝承における「敬意」です。この「敬意」って何だ?っていうのは、とても説明が難しいんですが、なぜそれが必要かというのは、なんというかつまり、原点を知らず鑑賞する視聴者の「うわあ!なんかすごい!!」という評価を、彼ら(グループを含む制作チーム全体)は容易に横取りできてしまうから、ということです。
以前から「パクリ疑惑」みたいな事象が話題になるたびに、それは「影響を受けた・インスピレーションを得た・オマージュとして表現した・パロディの題材とした」などのどれかにあたるのか否か、あたるから何なのか、あたらないから何なのか、何をもって「模倣だ・模倣ではない」と言い切れるのか、模倣したら何がどう問題になり得るのか…みたいなことが取りざたされますが、そのボーダーラインは簡単に示せるものではありませんよね。
この「敬意をもっておこなわれる模倣と伝承」は、例えばこの「DO IT」Trailerを見ても「パラジャーノフだ!」とか「ここはタルコフスキーの影響では?」とは思わない人がたくさんいればいるほど、むしろ重要なんだと思うのですよね。これはパラジャーノフを知っている人向けに作りましたよというのでもなければ、まずタルコフスキーのあれとこれを見てこい!とかいうのとももちろん違うし、ほとんどの人はそんなことを考えていないだろうから堂々とあちこちから「パクる」とかいうのとももちろん全然違うことなのです。
この件でAI生成動画の現状なんかも絡めて書こうかと思ったりもしたのですが、それはまた今度、別の機会にでも!
















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