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アニメ「Artiswitch」シリーズについて

映画やドラマシリーズは専ら日本以外の作品ばかり鑑賞していますが、アニメについては日本のTVシリーズ作品なども含め、いろいろ観ています。

アニメというくくりではありませんが、子どものころは、以前ブログに書いた通りでセサミストリートが大好きでした(家族には余り理解されていなかったと思いますが)。ですが、ほかの朝の子ども番組や夕方の子ども向け定番アニメなどはあまり見たことがないため、え?これを知らないってホント?ってびっくりされてしまうものも結構あります。なので、鑑賞してきた作品や見方が偏っている自覚はあります。

なんにせよ、たまたまきっかけがあって鑑賞し、気に入ったものはやはりDVD等で購入して繰り返し鑑賞しますが、今は最新シリーズも含めネットで各種配信サイトから気軽に幅広く観てみることができるのは便利ですよね。


そんななかで、今日ご紹介したいのは、「Artiswitch」というシリーズです。



これはTVなどで放送されたものではなく、最初からYouTube配信として制作されたオリジナルのアニメシリーズです。配信開始は2021年5月28日。全6話、各回それぞれ8分程度です。私が最初にこれを知ったのは確かYahoo運営の動画配信サービス経由でした。今もYouTubeチャンネルで全動画を鑑賞することができます。

この動画チャンネルのプロフィール欄に公式サイトなどへのリンクがあるので詳細はそちらをご参照いただければと思いますが、プロジェクトとしては「アート・ファッション・ミュージック」をテーマにしているとのことで、舞台となっているのは原宿、登場するのは主に10~20代の人たちです。

…と紹介すると、いわゆる原宿系の若者文化、という印象を持たれるかもしれません。まあ確かに、そういう側面から描いているといえるのですが、もっとなんというか…大げさと思われるかもしれませんが、例えば、そうですね…なんというか、19世紀ロマン派のエキスみたいなものがここに結構表れている気がするんですよ。


以下は登場人物や各回のあらすじです。ネタバレが含まれますのでご注意ください。


主人公は「裏裏原宿の魔女」と密かに噂されるニーナ。彼女のお店は不思議な入口からしか入れません。彼女は、そこに導かれるようにやってくる10~20代の人たちそれぞれの心の奥にあるものを覗く手伝いをする、修行中の魔女です。お供はミニブタとカメレオン。お供というか、アドバイザー的な存在としてニーナを見守っています。


第1話でお店を訪れるのは、ダンスチームで日々練習に励むハルカです。長身でスタイルがよく、ショートヘアが似合う。チームではコーチに一目置かれている存在です。でも、自分「らしさ」というものに向き合えずにいる。自分がいま皆に思われている「らしさ」(作品中では「(わたし)っぽい、っぽくない」という表現がとられています)と本当の自分との乖離。どうしてそこから逃げているのか。どうして装っているのか。店に迷い込んだハルカはニーナにあるものを渡され、心の奥を覗き、店を出た後で、そこに少しずつ向き合おうという気持ちになっていきます。


第2話は、皆に合わせ、皆とうまくやって毎日楽しく暮らすマナの話です。流行りの服やメイク、流行りのお店のスイーツなんかをインスタグラムにあげて人気を集める一方で、ひそかに弾き語りの動画を投稿し、そちらは一向に注目されず落ち込んだりする日々を送っていますが、ある日突然、ニーナの店に迷い込みます。そこで自分の心の奥にあるものに気づき、ずっとうまくやってきた友人たちからは「主張激しすぎw」と陰口を言われるような行動に踏み出します。


第3話ではファッションデザイナーを目指すアキヒロが来店します。普段から周りに対しては冷笑的な批判ばかりですが、デザイン学校の課題提出は遅れがち。そんな彼が目を背けているものは一体何なのか。どうして目を背けてしまうのか。奇を衒うこと、平凡なこと。何がしたいのか、何をすべきなのか。なりたい自分、なるはずの自分、まだ何者でもない自分。ニーナの店で、彼はそれを思い知らされたのかもしれないし、そう簡単なものでもなかったかもしれない。でも、少なくとも彼は課題に手を付けます。


第4話はこのシリーズでおそらく一番注目を集めた回だと思います。るるはロリータファッションなどと呼ばれる類の服に身を包み、原宿を歩き回りながら、自分が好きなものと嫌いなものについて考えています。好きなものだけに囲まれていたい。でも世の中には好きじゃないものもあふれている。そんな中で、るるは原宿駅前で小耳にはさんだ魔女の話に興味を持ち、店を訪れます。ニーナはその日、最近の自分の仕事ぶりに満足してご機嫌でした。でも、るるが「心の奥を覗きたい」と頼むと、なぜか少し戸惑います。それでもお客さんの願いをかなえるのが魔女の仕事。るるの心の奥を覗く手伝いをします。そして、満足したるるは、ある一言を残して去っていきます。


第5話はモデルのてぃあらが、モデル仲間でもある友人サキとの関係に悩み、ニーナの店を訪れます。ニーナは、るるが来店をきっかけに決心してしまった(かもしれない)あることについて、自分のせいだと思い苦しんでいて、てぃあらに今は無理だと伝えるのですが、カメレオンとミニブタに諭され半ば強制的に、てぃあらの望み通りに心の奥を覗く手伝いをします。てぃあらは自分を縛っているものや暗い望みを自覚し、そこから自分自身を解放しようと決心します。でもニーナの心は晴れません。カメレオンたちにも魔女の役割を改めて説かれてしまいます。お客さんの願いをかなえることは自分の幸せの価値観を当てはめてしまうのとは違うのだということに直面し、ニーナは混乱します。


第6話はニーナ自身の話です。第1話冒頭で少しだけ描かれる「事の起こり」にもどって、彼女に何が起きたかが描かれます。人を理解するということ、理解されるということ、救うこと、救われること、人が属する場所はどこか、心の奥には何があるのか。この回はいろいろな読み取りができてしまうし、これ以上私が「あらすじ」として書いてしまってはいけないと思うし、9分弱なので、ぜひご覧いただければ…!


この作品について、最初のほうで「ロマン派のエキス」が表れていると書きました。

ロマン派。私が自分の分野として主に扱うのは17世紀以降の西洋音楽ですが、その中で19世紀ロマン派はいろいろな面で分岐点となったといえると思っています。いい面でも、よくない面でも。芸術といえば個性!みたいな価値観に向かっていったのもこのあたりからだと思いますし、ハムレットの解釈なんかで見ても今の一般的に抱かれがちなイメージはこのあたりで定着してしまったと説明されることが多い。

なぜこの19世紀の文化潮流が分岐点になっているのかということを、今この場で掘り下げて書き記すのは、自分には無理です。こんな気軽に書いているブログなどで説明し得る問題ではありません。本当に様々な要因が重なっていると思うので。出版の文化、著作権、政治的・社会的変容、生産手段と機械化、エネルギーや交通手段の変化。あらゆることを掘り下げなければなりません。

ですから、なんとうか、「ロマン派のエキス」という言葉は、誉め言葉として絶賛するという意図で気軽に用いたわけではありません。ただ、社会の変容を考察するうえで、単純に図式化することが難しい様々な要因が絡んで生じてしまう文化に表れる特有な気配みたいなものをこのシリーズに感じたというか…などというとなんだか大げさな割に何も語れていなくて、それこそこんなことを書いてしまう自分の心の奥を覗かされたくないなあと思いますが…


るるの回は、実は最初は少し苦手でした。自分の周囲にも、自分が救いたくても救えなかった人がいたことを思い出してしまうからです。でも、るるが、嫌いなものばかりの世の中でそれを嫌いでいる自分も含めて受け入れ、夜が明けた空を見上げながら「青空、嫌い」とつぶやくの、すごく味わい深い。シューマン「詩人の恋」ラストの後奏のような味わい深さです。この感じ、わかってもらえるかな…。


なお、このシリーズ1~5話に登場するニーナ以外のキャラクターたちの後日談的なものをまとめたさらに短い動画シリーズ(各5~6分前後、全5話)もあり、メインのシリーズで少しもやもやの残る部分も含めて描かれています。特に第5話では本シリーズであまりいい印象をもって描かれないサキの側から悩みや葛藤を描いているのがとてもよかった。本シリーズもこちらのシリーズも背景にその回以外の登場人物が通り過ぎたりするのは、いわゆるイースターエッグ的な楽しみというだけでなく、通り過ぎる人と出会う人というものをうまく描いているなあと思います。



加筆:このブログを書いてしばらくたってから不意に気づいたんですが、この「自分の心の奥を覗く」というコンセプト自体はテリー・ギリアム監督「The Imaginarium of Doctor Parnassus Dr.パルナサスの鏡(2009年公開)」あたりと共通していますね。まあこういうテーマ自体はすごく珍しいわけでもないし取り立ててそこに注目する必要もないとは思うのですが、どちらも好きで繰り返し観てきた作品なのに結びつけて考えてはいなかったなあ…と。

このThe Imaginarium of Doctor Parnassusを含めギリアム作品についてもそのうちブログで書きたいと思っています。



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