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「スポットライト」と「VICE」①

この2つの映画、共通した題材を扱っているとは言えないので、一度に語ることは難しいのですが、語ってみたいと思います。といっても、長くなりそうなのでそれぞれの作品ごとに分けて書いていきます。それじゃあくくってタイトルをつける必要ないじゃないかと思いつつ、ある意味この2作品は「メディアと事実」みたいなものを扱っているという点で共通しているといえなくもないので、こういう形でくくってみました。


まずは「スポットライト」から書いていきましょうか。

「Spotlight」はトム・マッカーシー監督、マイケル・キートン主演の2015年秋公開アメリカ映画で、日本では「スポットライト 世紀のスクープ」として2016年春に公開されました。2001年ボストン・グローブ紙の「スポットライト」と呼ばれるコーナー取材チームに関する実話をもとにしており、役名も実際の記者や関係者の名がそのまま用いられていたりします。第88回アカデミー作品賞・脚本賞をダブル受賞したことでも話題になりました。

あらすじは2024年4月7日時点のWikipedia(日本語)から以下に転載します。


2001年、マサチューセッツ州ボストンの日刊紙『ボストン・グローブ』はマーティ・バロンを新編集長として迎える。バロンは同紙の少数精鋭取材チーム「スポットライト」のウォルター・ロビンソンと会いゲーガン神父の子供への性的虐待事件をチームで調査し記事にするよう持ちかける。チームは進行中の調査を中断し取材に取り掛かる。

当初、チームは何度も異動させられた一人の神父を追うが、次第にマサチューセッツ州でカトリック教会が性的虐待事件を隠蔽するパターンに気づく。虐待の被害者のネットワークに接触したのち、チームは13人の神父に調査対象を広げる。統計的には90人程度の神父が性的虐待を行っているはずだと言う指摘を受け、病休あるいは移動させられた神父を追跡して87人のリストを得る。カトリック信者の多いボストンで、チームは様々な障害・妨害にあう。

調査が佳境に差し掛かる頃、チームは9月11日を迎える。テロの後、チームの調査はしばし棚上げされる。枢機卿が虐待事件を知りながら無視したという公的な証拠の存在をつかみ、チームは活気づく。ロビンソンはカトリック教会の組織的な犯罪行為を徹底的に暴くために記事の公開を遅らせる。チームはより多くの証拠を公開するよう求めた裁判に勝ち、2002年にようやく記事を公開し始める。

記事公開の直前、ロビンソンは、1993年に性的虐待を行った20人の神父のリストを受け取りながら調査をしなかったことを告白する。だが、バロンはチームが今、犯罪を暴いたことを称賛する。翌日、チームは多くの犠牲者から告白の電話を受け始める。合衆国および世界中で聖職者による性的虐待のスキャンダルが明るみに出る。隠蔽行為を行った枢機卿は辞任するが、ローマの大教会に栄転する。


以上転載でした。

あらすじとしては確かにこういうストーリーで、これだけで十分「何が起きたか」は伝わると思います。でも、この映画はもっともっといろいろな問題点を包括的に描いており、ぜひ実際鑑賞してもらえたらなあ…と思いますので、そのポイントをざっくり映画の脚本としての順番に沿っていくつか書き出してみます。免責事項的に先に申しあげますが、映画の脚本や描写として実際に出てくるものであり、それに対して私がどう思ったかとかどう受け止めるべきかということをここでお伝えする意図ではありませんので、その旨ご承知おきください。

なおもう少し詳しいプロットや登場人物についての記述はこちらをご参照ください。



・冒頭シーンは1976年に遡り、ゲーガン神父の問題が警察沙汰になっている(が隠蔽され大事にはならない)様子で始まります。


・新編集長マーティ・バロン氏はユダヤ系であり、実際新編集長の紹介としてグローブ紙にも「初のユダヤ系編集長」と記載されたことを含め映画中で何度も言及されます。


・弁護士のガラベディアン氏は、ゲーガンをはじめとする神父たちが30年にも渡って約80人の子供を性的虐待したという事実を隠蔽したとして、枢機卿を相手に訴訟を起こしていましたが、このガラベディアン氏は(名前からお分かりの方もいらっしゃるかもしれませんが)アルメニア系です。映画の中で「よそ者」としてボストンの町に住んでいる感覚を述べており、新編集長バロン氏がユダヤ系であること、スポットライトの取材でやってきたレゼンデス氏がポルトガル系(本人はボストン生まれ)であることも含めて言及します。


・一方、グローブ紙の主要メンバーや町の要人はおそらく多くがアイリッシュ系であろうことがうかがわれます。スポットライト取材チームのチーフであるロビンソン氏(ロビー)と教会側の弁護士であるサリヴァン氏は旧知の仲であり、慈善パーティーで乾杯するときに「Sláinte!」と言っています(この語自体はスコットランド・ゲール語でもありますが)。グローブ紙やこの映画に登場する関係者だけでなく、上に転載したあらすじにも書かれている通りで、ボストン・グローブ紙の当時の購読者層は53%がカトリック信者であることが映画の中で言及されています。新編集長バロン氏は「慣例だから」と枢機卿のもとに挨拶に出向くよう言われており、その席で枢機卿から「この町のガイドですよ」と丁寧にラッピングされたぶ厚い本「THE CATECHISM OF THE CATHOLIC CHURCH」を渡されます。


・ゲーガン事件を追跡するためには教会の圧力で封印されている公文書の開示を請求する必要があるのですが、「それは教会を相手に訴訟を起こすも同然」として抵抗を示す人が多いことが様々な形で描かれます(グローブ紙の局内や取材先の関係者、家族が熱心なカトリック信者なので悩む取材チーム員の様子など)。


・取材を進める中で、実際に性加害をした神父の一人に話を聞くことができた場面がありますが、「私もされたのでわかる、あれはレイプではない」と主張します。その様子を私の主観でここに描写することは避けたいので、実際ご覧いただく機会にはぜひその場面にご注目ください。


・被害者グループに対してグローブ紙の統括部長が抱いている印象が「信用ならない」「胡散臭い」という感じなのが本当にきついというか、ここも、実際ご覧になったらきっといろいろ考えさせられるところかと思います。もうじき記事になるというときに2001年9月11日の事件が起き、公開時期が年明けに持ち越されることになってこの被害者グループのリーダーは取り乱します。結局こうなる(事件が明るみにならないままうやむやにされる)ことの繰り返しに対する苛立ちです。


・登場する弁護士は前述のガラベディアン、サリヴァン各氏以外にもう一人、被害者側の弁護士であるマクリーシュ氏がいますが、彼の印象は映画のそれと実像は少し違うようなので、実際の記事なども参照するとよいかなと思います。と思うのは私が映画を一度見ただけではなかなか深く読み込める注意力がないせいなんでしょうけれど、何度か見ているうちにこの弁護士の印象が変わってきたのは確かです。そして、その「自分には最初は見えてこなかった部分」がこの事件やそれが暴かれるまでの経緯の中でとても重要なのかもしれない、と思ったりします(なぜにこやかに印象よくメディアに登場していたのかを含めガラべディアン氏とのやり方の違いなどでいろいろ考えさせられたというか…)。



いかがでしょうか。映画自体をご覧になっていない方にはこんなことを書き連ねてもよくわからないかもしれませんが…

この映画は単に「苦労してスクープをつかむ」話なだけではなくて、うすうすわかっていた問題点を見過ごしてきた事情、見過ごさせてきた事情、そんな事実に目を向けることもなく過ごしてきた人々の事情、見過ごしてはいけないと思うきっかけ、暴く側、暴かれる側、被害者、加害者…それにさらに上記のような事情も細かく関与しながら、かなりきめ細かく描かれた映画だと思います。それでもマクリーシュ弁護士やそのほか関係者が映画での描写に反論を述べたり、ここで描かれていない問題点をさらに指摘する声もあります。


というわけで、未見の方は是非一度ご覧ください!!


改めて思うんですけど…私って映画紹介下手ですね…


一つだけ、実際の脚本から台詞を引用します。

開示請求が通った文書を、それでもまだ出し渋る判事とレゼンデス氏(Mike)との会話です。


JUDGE VOLTERRA: These exhibits you’re after, Mr. Rezendes, they’re very sensitive records.

MIKE: All due respect, your honor, that’s not the question here. The records are public.

JUDGE VOLTERRA: Maybe so, but tell me, where is the editorial responsibility in publishing records of this nature?

MIKE: Where’s the editorial responsibility in not publishing them?




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