top of page

To be, or not to be: that is the question.

はいそうです。

Hamletでおそらく一番有名な、あの「To be, or not to be: that is the question. 」です。


私は英文学の専門ではありませんし、こういう細かい解釈を述べるのはちょっと怖いなあと思うのですが…何事もやってみないとわかりませんし、勇気を出してちょっと書いてみます。


以前ハムレットの映画について書いたブログ記事のリンクはこちらです。


シェイクスピア作品では、時系列的に整合性が取れていなかったり(実際ハムレットでそういう部分が出てきます)、題名や内容として当然想定されるものに矛盾があったり(「夏の夜の夢」ではミッドサマーとタイトルにあるのに夏至ではなく「5月祭のために早起きして」というセリフが出てきてしまうなど)、どこまでが「わざと」でどこが間違いや勘違いで何が自分の知識やリサーチの不足なのか、わかりかねるというか、ちょっと難しいところがあるなあと思います。まあ、これに類することで楽譜を読み解く場合にもしょっちゅう悩まされているので、ある意味慣れているといえば慣れているのですが、どう解釈してもいいけれど正解は永遠にわからないままなので、なんとも…語るのが難しい。


さて、まずはあの独白のシーン(3幕1場)の前後関係はどうなっているのかというと…劇中劇の準備なんですよね。

ここが実にトリッキーで、映画ですと、ブラナー版以外ではこの劇中劇の準備の場面はカットや短縮がなされがちですから、意外と前後関係が分かりにくいというか、ちょっと唐突な印象ですらあるというか。


ざっくり経緯を見てみましょう。


父の亡霊との対話(クローディアスに暗殺されたと告げられる)

事実を暴くために奇行をしだす(ポローニアスとのいわゆる「魚屋の場面」など)

ギルデンスターンとローゼンクランツ来訪(クローディアスの差し金で見張りがついたということ)

劇団の到着

劇を利用してクローディアスの罪が暴けるかもしれない!(←今ココ)


ってところでしょうか。


ちなみに、この有名な独白に続くのはオフィーリアとの対話(「尼寺へ行け」を含む場面)です。ハムレットはオフィーリアがクローディアスとポローニアスのたくらみで差し向けられたことも見抜いています。


ハムレットは前王である父の亡霊と対話してからというもの、とにかくずっと「どうやってクローディアスの罪を裏付けるのか」を考えています。

というのも、まず、いくら尊敬していた父とはいえ、対話したのは「亡霊」ですからね…亡霊自体(といってよいのか…?)はホレイショらも目撃していますし、宗教的にもそれはある程度ゆるぎないものではあるのでしょう。が、実際に対話したときはハムレットは一人で父の亡霊のあとについていき、ホレイショらは離れたところにいました(まあ何人でその話を聞こうが相手が亡霊であることに変わりはありませんが)。

父の亡霊からは、弟(クローディアス)がどのような卑劣な手段で自分を殺し王位と妻を奪ったかの詳細のほかに、仇をうつための行動によって自身(ハムレット)の心をけがしてはならないということ、ハムレットの母(ガートルード)には危害を加えず、彼女の裁きは天に任せそこで自身の心の棘に身をさいなませればいいと言われていることもハムレットには悩みの種というか、じゃあどうすればいいんだ!という状態です。ですから、とにかくハムレットは事実を明るみに出したい(そう思うと劇中劇を見たクローディアスが叫ぶGive me some light!の意味も深まってくるのですよね…)。

そこに劇団が到着したので、劇を利用してクローディアス自らが尻尾を出すような罠を仕掛けようと、ハムレットは着々と準備しているわけです。その準備で役者たちに語るハムレットの「演劇論」はシェイクスピア自身のそれを代弁しているのではないかと思います。「劇というものは自然(ありのままの状態)に向かってその鏡を掲げるようなもの」というのが印象的です。部分的ですが引用してみます。


Be not too tame neither, but let your own discretion be your tutor: suit the action to the word, the word to the action; with this special observance, that you o'erstep not the modesty of nature: for any thing so overdone is from the purpose of playing, whose end, both at the first and now, was and is, to hold, as't were, the mirror up to nature; to show virtue her own feature, scorn her own image, and the very age and body of the time his form and pressure. Now this overdone, or come tardy off, though it make the unskilful laugh, cannot but make the judicious grieve; the censure of the which one must in your allowance o'erweigh a whole theatre of others.


件の独白は、改行ありでそこそこ長いし、これはどこからでもきっとすぐ検索で出てくると思うのでここには引用しませんが、原語原文で読むと、意外なほどに人称代名詞が出てきません。だから何を語っているのかちょっとわかりにくい。おそらく唯一出てくるのが「彼」ですので、特定の人物を指しているのか、一般論的なことなのか、自分を客観視しているのか、解釈が分かれるところなのかなあと思います。

が、この場面に至るまでの経緯や前後関係から考えて、この時点でのハムレットが自身の話としての生死(自死的な発想を含む)を考えているといった解釈は、私はちょっと違うと思うわけです。なので、日本語訳で「生きるべきか死ぬべきか」的な文章があてられていると「それではまるでハムレット自身が今その2択で悩んでいるようではないか…」と思えて、どうしても違和感があります。ハムレットには自己も他者も含めて様々な存在が疎ましく思えているのは確かですが、今のこの段階でクローディアスの罪を暴くという目的と父の仇をとるという意志を放棄する気はないと思うんですよね。

また、父の亡霊との対話も、何せ相手は「亡霊」ですから、それは存在していたのか、存在していないのか、という問いでもあるかもしれない(これは全然自信がありません)。とにかく、そういうあやふやな事物や状態を含めて「存在するということ」自体への問いでもある気はしますし、少なくともこの独白で「生きているということと、死んだも同然で生きているということ」という二つについて考えていることは確かです。

じゃあどう和訳するのがいいと思ってるかっていうと…本当に、さっぱりわかりません。何も思いつきません。全面降伏、お手上げです。


余談ですが、オリヴィエ版冒頭で引用されるハムレットのセリフは、父の亡霊が現れるのを待つ間にホレイショらと語り合っている場面(1幕4場)に出てくるものです。このセリフもかなり訳しにくいと思いますが、なぜこれがオリヴィエ版の冒頭に引用されたのかは興味深い点です。


So oft it chances in particular men

That through some vicious mole of nature in them,

By the o'ergrowth of some complexion

Oft breaking down the pales and forts of reason,

Or by some habit grown too much: that these men ―

Carrying, I say, the stamp of one defect,

Their virtues else ― be they as pure as grace,

Shall in the general censure take corruption

From that particular fault.


映画五本比較を書いた時には勇気が出せなかったのもありますし、なによりもまずそれぞれの映画の特徴を書くのに手いっぱいでしたので、原文の解釈に関する部分にはあまり踏み込めなかったのですが、例えばゼッフィレッリ版には登場人物全員どうにも「肩入れできない」モヤモヤさがあるのに対し、オリヴィエ版をリピート鑑賞していると、誰も悪くないというか…生まれ持った性質上のものや与えられた条件など本人にはどうすることもできない何かと、それが故になされた選択ミスのようなものが絡み合い引き起こされた悲劇に見えてくるのは、オリヴィエ自身がこのセリフから全体を演出していったからなのだろうと思います。


ちなみにこのオリヴィエ版冒頭の引用文は原作からみると5行ほど短縮されています。原語原作を参照される際には「To be, or not to be:」の場面だけでなく、ぜひここも併せてご覧ください。

あ、あと魚屋 fishmonger の場面(2幕2場)も!


というわけで…またハムレットについて書いちゃったけど…ハムレットはいいぞ!



53 views
Recent Posts 
Search By Categories
Follow Us
  • Vimeo Social Icon
  • PixelFed
  • vivaldi_browser_logo_icon_152945
  • icons8-mastodon-is-an-online,-self-hosted-social-media,-and-social-networking-service.-96.
  • icons8-mastodon-is-an-online,-self-hosted-social-media,-and-social-networking-service_edit
  • Instagramの社会のアイコン
bottom of page