ジーン・ケリーの「Anchors Aweigh」
- eri tsuchiya
- Jun 12, 2024
- 5 min read
Updated: Apr 22
Anchors Aweighといえば吹奏楽などでの定番曲の一つだと思いますので、楽曲として思い浮かべる方も多いかもしれませんが、今日書くのはジーン・ケリー(とフランク・シナトラ、キャスリン・グレイソン)主演のミュージカル映画のことです。さっきMastodonで「誰にとっても幸せで楽しい話題とは」ということに触れて投稿した折に、「生きるために、つかなくていいはずの嘘をつくことのきつさ」について考え、逆に「嘘をついてでも通したい建前」ってものもあるんだよな…ということを思いつつ、ふとこの映画のことを思い出していました。
MGMミュージカルでジーン・ケリー主演といえばおそらく誰もが真っ先に挙げるのは「Sinigin' in the Rain(1952)」「An American in Paris(1951)」「On the Town(1949)」あたりだと思いますが、「Anchors Aweigh」はそれらより少し前の1945年7月中旬(14日または15日との記述あり)、ポツダム宣言の直前にあたる時期に公開となりました。
プロットとしては、いわゆるラブコメディでありサクセスストーリーでもあり、子どもから大人まで幅広い人々が楽しめる娯楽作品であるといって間違いはないと思います。
ストーリーはいつものようにWikipediaから引用を…と思いましたが、実は今回ここで書きたいと思う部分はストーリーのほとんどの部分とあまり関係ないといえばない…ので、興味のある方は以下のリンクからご覧いただくとして…
さて、その、今回書きたい部分の話です。
といってもそこを述べるためには最低限のストーリーというか事の起こりや流れと登場人物の設定だけは書かなきゃですね。
快活なジョー(ジーン・ケリー)と内気なクラレンス(フランク・シナトラ)は海軍兵で、先だって上げた功績をたたえられてメダルを授与され、褒美に4日間の休暇をもらい、ハリウッドで羽を伸ばそうと繰り出します。
そこで海軍兵に憧れる少年ドナルド、次いでドナルドが一緒に暮らす叔母スージー(キャスリン・グレイソン)に出会います。
で、なんだかんだありまして(なんだかんだといってもラブコメディとサクセスストーリーですから深刻な話は一切でてきません)、ドナルドが通う小学校に用事で出向いたジョーが休み時間中の子どもたちにせがまれ、どうしてメダルが授与されたのかを話して聞かせることになります。
ここでジョーが子どもたちに話して聞かせるのが、まったくの作り話なんですね。
「目を閉じて想像してごらん…私はとても気持ち良い野原にいて、飛んだり跳ねたりしていたんだ、そしたら突然穴にはまってしまったんだよ、そこは暗かったけれど、トンネルの向こうに見える明かりを頼りに進んでいったら、ある奇妙な国にたどりついたんだ」と話し始めます。
そしてこんな感じで続けます。
「その国はやけにひっそりしていたんだ。鳥たちも声を潜めている。聞けば、王様が法律で歌うことも踊ることも禁止しているからだというんだよ。ひどい法律じゃないか。だから王様の住むお城まで行って話をつけてくることにしたんだ」
ある意味でメロスみたいな展開(!)ですが、実際ジョーはすごい速度で王様の住む城まで走っていきます(もちろん途中からアニメ合成です)。そして王様の部屋に入り込みます。そこにいたのは、トムとジェリーの、あのジェリーです。つまりジェリーが王様の国というか、ジェリーが王様を演じているというか…文字情報として書くとなんだか伝わりにくいかもしれません…実際観ていると何の違和感もなく「ああジェリーが王様なんだな」と思えるのですが、とにかくジェリーが王冠をかぶって立派な王座にちょこんと座っています。
ジョーが入ってきたことに気づいていない王様は食欲もない様子でため息をついています。その王様にジョーは「こんにちは、どうして悲しそうなんだい?」と話しかけます。「悲しくないよ!ただ…さみしいんだ」「そりゃあ自業自得だよ、ひどい法律で音楽も踊りも禁止なんかするから」というジョーに「だって仕方なかったんだ、王様たるもの、なんだってみんなより上手にできなきゃならないのに、自分は歌も踊りもできないんだもの」と王様。そこでジョーは歌いだし(Worry Song)、踊りを教えてあげるよと提案し、最初は不安げだった王様も次第に調子よく踊れるようになります。それで感謝した王様はジョーにメダルを授けた、という顛末です。
そうです、これが「Worry Song」の場面です。実写のジーン・ケリーとアニメのジェリーが共演したことで有名ではありますから、もしかしたらここだけは知ってる!見たことある!という方もいらっしゃるかもしれませんね。
少年ドナルドは海軍に憧れていますから、実際に起きたこと(戦友を救い受勲したこと…それもなんというか割と軽いタッチで描かれるのですが)を語ってもよかったはずです。でもジョーは嘘をついた。それはもちろん、ドナルドがまだ幼いからかもしれない。でも、当時のハリウッド映画界を支えていたのはどんな人々だったのかという点やその他の様々な状況を鑑みると、戦争というものを単純な憧れや美談に直結させないための抵抗のようなものにも思えるんですよね。
そして、もう少し深読みすれば、戦争が終わることで人々の手に心から音楽や踊りを楽しめる暮らしが戻ってくるのだということも含んでいたのかもしれない…と思ったりもします。
もちろん、王様を演じているのがかわいらしいジェリーなので見落としがちではありますが、理不尽な独裁制に対する批判と皮肉もそっと忍び込ませているのでしょう。
…などという見方は甘いのかもしれないけれど、私はこの場面がすごく好きだし、毎度毎度、なんだか泣いてしまうんですよね…もちろん、ジーン・ケリーみたいな踊りをちょっと試してすぐ簡単にできるわけもないし、そこも甘いのは重々承知しているのですが…
興味をもってくださった方は、この場面だけでも、あるいはスクリプトだけでもご覧いただけるとよいなあと思いますし、もちろん映画全体もとても楽しめる要素が満載なので、ぜひ!
ちなみに、スクリプトや言語字幕をご覧になるとわかりやすいと思うのですが、この場面ではジョーがこの場面でのジョーは自分について「ポメラニアの海軍兵だった」としています。私が所有するDVDの日本語字幕ではこの部分が正確に訳されていなかったため、スクリプトを見るまではちゃんと理解していなかったのですが、なかなか興味深いところでもあります。

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